ケルティア王国。
柔らかな風が吹き、鮮やかな緑が揺れる。少し前ならば王宮を囲む緑すら寂しく感じたが、ここ数年でこの国の自然は変わりつつあった。そんな緑豊かな王宮に、高い声で誰かに怒りをぶつける声が聞こえる。
ここは王座の間。
その真ん中に声の主はいた。
長い真っ直ぐな銀色の髪に、淡い緑の瞳を併せ持つ少女。怒りを向けた相手は王座に座っている。王座に背を預けるのは、当然この国の王である。少女と同じ銀色の髪に淡い緑の瞳。しかし、すでに少女とのやり取りにはウンザリなのか、肘をつきやる気のない姿勢で、怒っている少女――ミトセリス=ケルティアを見ていた。
「だからなぁー……」
もう何度目の説明だろうかと思いつつ、今だ納得できてない様子の妹姫に溜め息をつきながら口を開く。
「隣国との交流も必要なことで……」
「それはさきほども聞きました!」
最後まで言う前に遮られてしまう。説明のしようがないじゃないかと思ったが、そんなことを言えば、この妹姫は兄王――グラークス=ケルティアに何時間でも説教をし始めるだろう。
しかし今回ばかりはそうも言っていられないとばかりに、口を開いた。
「とにかくだ。お前には1週間後にグラシス王国の晩餐会に行ってもらう」
「1週間後!?いくらなんでも急すぎるわ!」
納得していない上に、あまりにも急すぎる予定に文句を言ったが、聞き入れられることはなかった。
怒り狂ったまま出て行った妹姫にため息をつきつつも、兄王は密かに微笑む。
「さて、どうなるかな」
すぐ隣で彼の王佐が「またろくでもないことを企んでるんですか……」と呟いたが、グラークスは聞かなかったことにした。
そんな兄王の企みを知ることなく、グラシス王国という国の晩餐会に参加することになったちょっと不幸な(?)妹姫のお話。
彼女を待ち受けるのは一体……? |