≪夕凪と青嵐≫ 同日の同時刻。 二つの命がこの世に産み落とされた。 母親同士、幼い頃からの友人でもあり、協力者でもあった。 お互いが優れた能力に恵まれ、かつ、努力家でもあり、名の知れた術師でもあった。 それが、僕らの母親。 僕と同時刻にこの世に生を受けた子ども、夕凪は、 僕らの母親と同じように僕の幼馴染であり、僕の親友でもある。 一族でも特に優秀だった彼の母親と同様、 夕凪には生まれながらにして、術師としての多大なる才能が秘められていた。 …だからって。 「…同じように、僕にも期待されたって、困る」 「んん!? なんか言ったかっ?」 口いっぱいにほうばっていたお団子をごくりと飲み込んで、目の前に座っていた少年が顔を上げた。 「なんでもないよ」 才能に溢れた夕凪とは違い、僕にはほとんどと言って良いほど、術師としての才に恵まれなかった。 剛毅な母親はけらけら笑って、産んだときにどっかにおっことしたわね! と言っていたが、周りの視線はそうはいかない。 僕が思うに、夏の一族の面々は、屈託なく明るく見えて、 人に気を遣うということをもう少し学ぶべきだと思わせる者が多い。 あからさまに人前で罵倒してくれる分にはまだ良いが、陰で言われることも多かった。 また、言っている本人は罵倒ではなく、純然たる僕への注進だと思っているのだからこれまたタチが悪い。 夏の一族でも名高い常磐木さまのお屋敷ですらも、小さな少年がいじめを受けていた、と何処かで聞いた。 情熱的、熱血的な気質は良いけど、人の事にどうしてそんなに熱くかかわれるのか。 気に入らないなら相手をしなければいいと思うのに。それこそ、暑苦しくてしょうがない。 どうやら僕は、父方の親戚筋である、秋の一族の方の性質を引き継いだらしい。 なんでもない顔をして、いつも通りかわそうとしたのだが、珍しく夕凪は引き下がらず、 口周りにべったりあんこを付けたままで、じっとこちらを見つめてきた。 「おれ、お前のそーゆーとこ、すげえ嫌い」 「…は?」 「なんでさ、いっつも一人で考え込んじまうんだよ。おれがここに居るの、ばっかみてえじゃん」 「僕も、夕凪のそうやって人にずけずけ踏み込んでくるところ、大嫌いだ」 「えーっ!?」 大いに心外、という表情で夕凪は大げさな悲鳴を上げる。 「おれ、おまえが女の子だったら結婚しても良いと思ってるのに!!」 「……」 情熱的も、熱血的も結構だけど。 短絡的で自己中心的なのは頷けない。 「それ、僕の意思を考えてないだろ。絶・対、お断り!」 「えー!!!??」 いよいよもって、心外、という顔で情けなく叫び声を上げる夕凪。 …僕が、どんなに努力しても夕凪の術の力には追いつかない。 どんなに勉強してどんなに修練しても、夕凪の実力の足元にも及ばない。 「青嵐〜、怒るなよっ。これから、明日までの課題の答え教えてもらうのにさ」 「誰に」 「青嵐v」 「お断りv」 「えー!!!!」 …聞けば。 夕凪のお母さんも、術の力はあったけど、解読とか、術の構成についてとか、そういった 細かい事に対しての理解力に対する頭脳には恵まれなかったらしい。 僕の母親も、最初は術師としては誰も認めてくれなかった。 だけど、二人とも生来の負けず嫌いな性格と、そして真面目に努力した結果、 今のように、みんなに認められる術師として名を馳せた。 夕凪のお母さんが主戦力、僕の母親が補助に回る。 夕凪のお母さんの術だけでは立ち向かえないところは、僕の母親がその頭脳と知恵をもって切り抜ける。 攻防一体、二人が一つになると向かうところ敵無しと言われた。 …二人で組むと、最強の術師だ、と。 「頼むよ〜青嵐っ、おまえだけが頼りなんだって!」 術師としてはおちこぼれな僕を、何故か夕凪だけは認めてくれている。 何をしても、すげー!すげー!と、アホみたいに口を大きく開けて、感心して、笑ってくれる。 …僕もなれるのかな。 いつか、親友の、一番の…